【質問】
呼吸の際の腹圧の変化に伴う、外見上の変化(おなかの凸凹)はこれからの講義の中で詳しく説明されますか?子どもへのかかわりで、腹式呼吸を促しているのですが、力みが入りなかなかうまく腹圧をコントロールできないんです。何か良い声かけございますか?
人体を実際に触って、触る前と後では具体的に山本先生の中でどのようなことが変化しましたか?触り心地と言ってしまうと変なのですが、できれば詳しくその時に感じたことを知りたいです。知識とは違い、実際の経験からくる言葉には説得力があると思います。私も、機会があれば筋等実際に触ったり、見てみたいのですが、あまりそのような機会に恵まれなかったので、山本先生の解剖の経験の話から学ばせてください。
【回答】
まずは腹圧について整理しましょう。
お腹の中には3つの部屋があります。
1. 腹膜腔(ふくまくくう)(腸を収める部屋):圧力が一切変わらない部屋
2. 後腹膜腔(こうふくまくう)(腸の後側の部屋):圧力が変化する部屋
3. 骨盤腔(こつばんくう)(骨盤の中の部屋):圧力が変化する部屋
この中で最大の部屋は腹膜腔であり、「お腹」の形をつくっています。
この腹膜腔は、軟らかい腸を守るために「圧力不変」の空間です。
つまり、「お腹」の形をつくっている部屋は、腹圧は変えられないのです。
この点から、「お腹」と思われている部分(おへそや腹直筋の凸凹等)を意識しても、腹圧はコントロールできないということになります。
腹式呼吸を意識している子どもたちが、やみくもにお腹を硬くしても呼吸に変化が生じないのはこのためです。「圧力を変えられない場所に対して圧力を変えようと努力しているの」で、力みだけが生じてしまうのです。
では「お腹から声を出して」と言われた時、お腹に力が入ったように感じる、つまり実際に変化する場所はどこなのでしょうか。
それは後腹膜腔と骨盤腔です。
後腹膜腔は、ちょうど腰のあたりになります。腰に手を当てて発声練習をしたり、腰の膨らみを意識させて呼吸練習をしたり、後ろで支えてといった指導文言はこれにあたります。
骨盤腔は、骨盤の内側になります。お尻の穴を締めて発声練習をしたり、中腰で呼吸練習をさせたり、腹の底や丹田といった指導文言はこれにあたります。
これらの点からも、「腹式」呼吸という文字の呪縛から離れ、腰と足の付け根を意識することは、新しいきっかけになるかもしれませんね。
そのあたりの具体的なエクササイズや声掛けにご興味をお持ちになられましたら、改めてお声がけくださいませ。
<解剖に参加して>
私が5年連続200時間超の時間をかけまして、アメリカでの人体解剖から学んだ経験を申しますと、「全身がしなやかに連動する」という一言に尽きます。
図鑑で横隔膜を見れば、横隔膜だけを鍛えたくなりますし、呼吸法の実技セミナーで「横隔膜のドームが下がるのを感じて」と言われると、横隔膜が動いていると感じる。
これらはどちらもありえない世界なのですが、それだけしか知らないと、それしか信じることができませんよね。最近になってUFOが話題になっていますが、UFOが実在すると信じている人は、あらゆる現象がUFOの出現に見えてしまうものなのです。それと同じです。
人体の構造を目の当たりにして、肺に手のひらで触れて、横隔膜を指で動かすと、何と狭い了見でまことしやかに呼吸を語っていたかと恥ずかしくなりました。アプリや図鑑で見るだけの「学んだつもり」と、実際に自らメスを持って解剖する「学び」とは、比べることは絶対に不可能です
繰り返しますが、「全身の連動」が大切です。一箇所だけでは望む結果を手にすることができません。出来る限り広く、出来る限り全体を学ぶことが、声に直結してまいります。
学びをどんどん拡げてください。