エリーナ・ガランチャリサイタル、サン・カルロ劇場(ナポリ)_
2025年5月31日、ナポリの歴史あるサン・カルロ劇場で行われた、エリーナ・ガランチャのリサイタルに行ってきました!この日のプログラムは、6月に予定されている日本公演とほぼ同じ内容。
ラトビア語、ドイツ語、ロシア語、フランス語、イタリア語、スペイン語と、多言語を自在に操る彼女だからこそ実現できる彩り豊かなプログラムでした。

一曲ごとに、音楽と言葉の意味を丁寧に読み解き、綿密に練り上げられた解釈で表現されるパフォーマンスは、まさにガランチャの真骨頂。
コンサート形式でありながら、わずかなジェスチャーと表情だけで物語や情景を鮮やかに描き出し、観客を音楽と言葉で描く世界に引き込んでいきます。
その高い声楽技術は言うまでもなく、舞台に立つ姿そのものが気品に満ちていて、彼女が世界中で称賛される理由がこの夜にもはっきりと現れていました。
公演が進むにつれ、会場の空気はどんどん彼女の音楽世界に引き込まれていき、「唯一無二の歌手だ」「本当に素晴らしい」といった声が客席から何度も上がるほど。
静寂と熱狂が交互に訪れる、その緊張感と集中力に満ちた空間は、まさに芸術が生まれる瞬間そのものでした。
アンコールでは、4曲を披露。
1曲ごとにイタリア語で曲目や背景を説明する彼女の姿からは、温かく自然な人柄が伝わってきます。
なかでも印象的だったのが、ラフマニノフの《Lilacs(ライラック)》、そしてもう一曲、彼女が特に愛しているというラフマニノフの歌曲(残念ながら曲名は聞き取れず、聴きながら曲目も頭にでてきませんでした)。さらに、自身の母語であるラトビア語の《Aizver acīnas un smaidi(目を閉じて、微笑んで)》も披露。
優しさと祈りに満ちた一曲で、言葉の壁を越えて観客の心に届いている空気を感じました。
「オペラ・アリアはアンコールで歌わないからね」とアンコールの最初に言っていたのですが、「これが最後ね」と微笑んで披露してくれたのが、チレアの《Io son l’umile ancella(私は創造の神の卑しい下僕)》。
この選曲には、私は思わず鳥肌が立ちました。
芸術とは? 創造とは? ――そんな深い問いかけに対する彼女なりの答えが、この一曲に込められていたように感じられました。
終演後、劇場の外でファンの姿を見つけると、自らバッグからペンを取り出し、「いつも自前のペンを持ってるのよ」とにっこり。ファンが写真撮影をお願いする前に、「撮りたい人は、さあ、早く隣に来て!」と、チャーミングな笑顔でその場を和ませてくれました。
「もうすぐ日本に行くの。とても楽しみよ」と話してくれたガランチャ。
オペラももちろん素晴らしいですが、ピアノ伴奏のリサイタルは、演出や舞台装置に頼らず、歌手自身の力量と人柄がまっすぐに表れる場です。
そんなステージだからこそ、彼女の真価がより鮮明に輝いていたのかもしれません。
6月の日本公演、ぜひ足を運んでみてください。きっと、忘れられない夜になるはずです。

イルデブランド・ダルカンジェロからのメッセージを彼女に届け、日本公演に向けての話や、彼につけたちょっと面白いニックネームの由来などで少し盛り上がっていたときに撮られた写真がこちら。
実は私、友人たちの間では「写真を撮ると目をつぶっている確率80%」と言われていまして……。
今回もその“期待”を裏切ることなく、見事に目を閉じております(笑)。
ただ、話が終わりかけているタイミングではなく、できれば話している最中に撮ってもらえたらよかったなぁ…なんて思ってしまったわがままな私でした。