表現することを頂点に置き、理論と実技が一体になるように考えられたマスタークラス・プログラムの午前中はカルロ・ボスキ教授の講義。

モーツァルトがロレンツォ・ダ・ポンテを台本作家として欲したように、イタリアオペラでは台本の影響が強く、音楽は言葉に仕えるといっても過言ではない。従来の楽式、和声、音楽史からのアプローチのみならず、日本ではあまり行われない台本、つまり言葉をベースに各受講者がマスタークラスのために準備した曲のアナリーゼは、古イタリア語、イタリア文学、イタリア史、イタリア音楽史、音楽美学に詳しいイタリア人のボスキ教授だからできること。ベル・カントと各年代、作曲者とのつながり、言葉と音楽の関わり、台本作家と作曲家が意図した登場人物像と音楽の理解を深める講義は歌う上でかなり役にたったはず。


ボスキ教授の言葉を、彼自身が皆のために準備した楽譜のコピーを手元に真剣に聴く受講生。 ハンガリーとチリからも聴講生が。


日本人の欠点をご存じのデヴィーア先生からの『ディクションのレッスンお願い』との言葉通り。ボスキ教授は各個人が歌う曲の発音も丁寧にレッスン

 ボスキ教授は私が通ったアルフレード・カゼッラ音楽院の音楽美学、音楽史の教授。彼の素晴らしいレッスンを受けた私は、これは日本では受けることが出来ない授業と、いつか日本の音楽学生、音楽家に紹介したいと密かに思っていた。通訳として彼の講義に参加させてもらって、やっぱりイイ!と再実感。受講者もこんなレッスン日本で受けたことない、大学でこんな授業が受けたかったと驚きと喜びのコメントが来たからよかったぁ~。

 

若い時、バリトンとしてブルージュのバロック音楽マスタークラスに毎夏参加してたから、発声のこともよく知っていて、デヴィーア先生の意図しているテクニックをよりわかりやすく皆に伝えるために、理論の講義のみならず、呼吸、体の使い方のレッスンもしていただけ受講生は助かったみたい。時間がある限り、デヴィーア先生のレッスンも聴きにいらして、受講生の変化を観察。少しでも何かをつかんでほしいと、受講生と多くの時間を過ごし、3日のお昼は勉強疲れなどを癒してほしいとお寿司を奢ったりと講義だけでなく、受講生の心のサポートにも気を配っていたボスキ教授でした。