パオレッタ・マッローク

Paoletta Marrocu
イタリア出身のソプラノ歌手
しなやかで豊かな声と個性的な音色を持ち、その情熱的かつ誠実な音楽表現で国際的に高い評価を受けている。豊富なニュアンス、的確なイントネーション、そして自然で深い感情表現により、幅広いレパートリーにおける役柄を的確に演じ分ける力を備えている。
劇場空間に響き渡る力強く豊かな声と卓越した演技力を兼ね備えた存在として、イタリアの音楽専門誌『L’Opera』(第17巻第172号)では、「聴衆を深く動かし、演出意図を精密に体現する自信に満ちたアーティスト」と評された。舞台映えする容姿と稀有な女性らしさもあいまって、まさに“音楽劇”を体現する歌手である。
カリアリ音楽院にてルチア・カッペリーノに声楽を学び、さらにソプラノのレナータ・スコットのもとで研鑽を積んだ。ルッカでの《ラ・ワリー》でデビューしたのを皮切りに、ミラノ・スカラ座で《ポッペアの戴冠》、ラヴェンナでは《オルフェオ》のタイトルロール、カリアリでは《カヴァレリア・ルスティカーナ》のサントゥッツァを演じ、同役でパレルモ・マッシモ劇場にも出演した。フィレンツェ市立劇場ではズービン・メータ指揮による《アイーダ》、パルマ・レージョ劇場ではピエルルイージ・ピッツィ演出による《一日だけの王》のタイトルロールを歌い、注目を集めた。
1999年、ボローニャ市立劇場にてブルーノ・バルトレッティ指揮の《晩餐の冗談》ジネヴラ役で国際的な注目を浴び、アレーナ・ディ・ヴェローナでの《トスカ》を経て、チューリッヒ歌劇場に定期的に出演している。2001年には、同歌劇場でトーマス・ハンプソンと共演した《マクベス》(指揮:フランツ・ヴェルザー=メスト、演出:デイヴィッド・パウントニー)に出演し、大成功を収めた。この公演はDVDとしても発売されている。


2003/2004年には、ミラノ・スカラ座の日本公演にてリッカルド・ムーティ指揮の《マクベス》に出演した。さらにウィーン国立歌劇場にて《トスカ》でデビューし、プラシド・ドミンゴと共演した《フェドーラ》にも出演した。ベルリン・ドイツ・オペラではクリスティアン・ティーレマン指揮による新制作《西部の娘》、チューリッヒでは《シチリア島の夕べの祈り》《仮面舞踏会》、ミュンヘンでは再びメータ指揮の《トロヴァトーレ》を演じた
2004/2005年シーズンには、ワシントン・オペラで《アンドレア・シェニエ》でアメリカデビューを果たし、マドリード・テアトロ・レアルでは《マクベス》に出演した。翌2005/2006年にはチューリッヒで《トゥーランドット》を初演し、サッサリでは《皇帝ティートの慈悲》、ウィーンでは《ナブッコ》、バーリではピツェッティ作曲《大聖堂での殺人》に出演した。同公演は「UNITEL」「DECCA」より映像化された。

2007年には、上海で《トゥーランドット》デビュー、サンディエゴでは《トロヴァトーレ》、ワシントンD.C.では再び《マクベス》に出演した。ヨーロッパではウィーンで《トスカ》、チューリッヒで《トゥーランドット》、サッサリではドニゼッティ《ルクレツィア・ボルジア》のタイトルロールを演じた。
2008年には、バーリで《ファルスタッフ》のアリーチェ役、ハンブルク州立歌劇場で《トスカ》、再びスカラ座に戻り、《外套》《マクベス》《囚人》に出演した。ザンクト・ガレン音楽祭ではジャンカルロ・デル・モナコ演出《ジャンヌ・ダルク》、ヴェネツィアではレオ・ヌッチと共演した《ナブッコ》、ルッカのプッチーニ・フェスティバルでは《マノン・レスコー》のタイトルロールで喝采を浴びる。
2009年には、バーリで《トゥーランドット》、チューリッヒではホセ・クーラと共演した《カヴァレリア・ルスティカーナ》、ヴェネツィア・サン・マルコ広場ではアンドレア・ボチェッリとのコンサート、サッサリでは《マクベス》のマクベス夫人を演じて絶賛を博した。年末にはハンブルクで《トスカ》、オスロでは《西部の娘》を上演。


2010年以降は、《ナブッコ》のアビガイッレ役でカタンツァーロ、レッチェ、ハンガリー国立歌劇場、ファーノ、バイエルン州立歌劇場に出演した。ダッラピッコラ《囚人》ではアムステルダム、ロンドン、ストックホルム、ミュンヘンで公演を行った。ドニゼッティ《ポリウート》ではグレゴリー・クンデと共演し、ベルガモとサッサリで出演。バルセロナとパレルモではリリアーナ・カヴァーニ演出の《カヴァレリア・ルスティカーナ》、ハンブルクおよびミュンヘンでは《マクベス》を歌った。
また近年は、プーランク《人間の声》、ラヴェル《スペインの時》、ポッリーノ《シャルダーナ人》、ガブリエル《ジュラ》、レハール《メリー・ウィドウ》、ヴァッカイ《ジュリエッタとロメオ》、マスカーニ《オイディプス王》、マルコ・トゥティーノ《センソ》など、現代作品や稀少作品にも積極的に取り組んでいる。
演出家としても活躍しており、ペルゴレージ《奥様女中》をモンティキアーリ、デゼンツァーノ、サラエヴォで演出し、プッチーニ《ラ・ボエーム》でも演出を手がけた。
ズービン・メータ、リッカルド・ムーティ、ダニエレ・ガッティ、ジャンルイジ・ジェルメッティ、ミシェル・プラッソン、ダニエル・ハーディング、エサ=ペッカ・サロネン、リッカルド・シャイー、クリスティアン・ティーレマン、アルベルト・ゼッダ、マルチェッロ・ヴィオッティ、ファビオ・ルイージ、ケント・ナガノ、ニコラ・ルイゾッティ、フランツ・ヴェルザー=メストなど著名な指揮者や、ウーゴ・デ・アナ、ロベール・カーセン、リリアーナ・カヴァーニ、ダヴィデ・リヴァモア、クラウディオ・レーヴィ、ジャンカルロ・デル・モナコ、デイヴィッド・パウントニー、ルカ・ロンコーニ、ロベルト・デ・シモーネ、ペーター・シュタイン、グレアム・ヴィックなど、世界を代表する演出家たちと多数の舞台を共にする。

彼女の声の柔軟性と、幅広い音楽スタイルや歌唱技法に対する深い理解により、オペラ、宗教音楽、歌曲、オラトリオなどを含むおよそ100以上の作品をレパートリーに持つ。
ヴェルディ作品においては、『アイーダ』『アルジーラ』『仮面舞踏会』『海賊』『ドン・カルロ』『ファルスタッフ』『一日だけの王』『ジャンヌ・ダルク』『マクベス』『レクイエム』『ナブッコ』『オーベルト』『トロヴァトーレ』『シチリア島の夕べの祈り』など、数々の難役を見事に演じ、プッチーニ作品では、『ラ・ボエーム』『西部の娘』『蝶々夫人』『マノン・レスコー』『修道女アンジェリカ』『トスカ』『外套』『トゥーランドット』などをレパートリーに持ち、いずれも高い評価を得ている。
また、バロック・オペラの分野においても活動しており、ミラノ・スカラ座でのモンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』ではオッターヴィア役、『オルフェオ』ではタイトルロールを務めた。モーツァルト作品では『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラ、『皇帝ティートの慈悲』のヴィテッリアを演じている。
ベルカント作品では、ベッリーニ『ノルマ』、ドニゼッティ『ルクレツィア・ボルジア』『ポリウート(パオリーナ役)』、スポンティーニ『テセオ・リコノシウート』のメーデイア、ハッセ『アルタセルセ』のマンダーネ、ヴァッカイ『ジュリエッタとロメオ』のアデーリア、ロッシーニ『イタリアのトルコ人』のフィオリッラなどをレパートリーとし、多くの舞台で『カルメン』の情熱的な演技でも観客を魅了してきた。
さらに、ヴェリズモ・後期ロマン派・現代作品においても定評があり、『メフィストーフェレ』『ラ・ワリー』『カヴァレリア・ルスティカーナ』『イリス』『ザネット』『アンドレア・シェニエ』『フェドーラ』『晩餐の冗談』『三人の王の愛』『大聖堂での殺人』『囚人』『シャルダーナ人』『ジュラ』『人間の声』『スペインの時』『オイディプス王』『映画館のピエロ』『センソ』など、幅広い作品に取り組んでいる。
マルコ・ポッダ作曲によるオペラ《毒の女(Donna di Veleni)》は、彼女のために特別に作曲された作品である。
教育者としても熱心に活動しており、マスカーニ研究センター(リヴォルノ)、ベルカント・アカデミー(マルティーナ・フランカ)、AMO(ノヴァーラ)、アトリエ・デッレ・アルティ(モーラ・ディ・バーリ)などでマスタークラスを開催している。門下生の多くが世界中の舞台で活躍しており、特にソプラノのリディア・フリッドマンは著名である。
また、数々の国際声楽コンクールにおいて審査員および審査委員長を務め、ヴェネツィア、ピアチェンツァ、トレント、リーヴァ・デル・ガルダ、ウーディネ、カリアリの各国立音楽院で教鞭をとり、現在はトリエステ“G. タルティーニ”音楽院にて専任教授を務めている。
1998年、ユネスコより「平和の芸術家(Artist for Peace)」に任命され、芸術を通じた社会貢献にも尽力している。


CD, DVD
DECCA《カヴァレリア・ルスティカーナ》(アンドレア・ボチェッリ共演)
Arthaus Musik《カヴァレリア・ルスティカーナ》(ホセ・クーラ共演)
TDK《マクベス》(T.ハンプソン、L.リマ、R.スカンディウッツィ)
HARDY CLASSICS《三部作》(スカラ座:J.ポンス、L.ヌッチ他、指揮:R.シャイー)
DECCA《大聖堂での殺人》(Diapason d’Or受賞)
RCA《ベルリンAIDSガラ》(Bumbry, Licitra, Pape共演)
Bongiovanni《ポリウート》(G.クンデ共演)
Dynamic《シャルダーナ人》(演出:D.リヴァモーレ)
Nuova Era ベッリーニ《カターニャのミサ曲》
Bongiovanniスポンティーニ《テセオ・リコノシウート》(指揮:A.ゼッダ)
Kikko《イタリアのトルコ人》
Sarx Recordsカヴァッリ《ミサ曲とマニフィカト》
Bongiovanni マスカーニ《イリス》
Dynamic ヴァッカイ《ジュリエッタとロメオ》
など
