姿勢が悪く見えるピアニストたちについて
- 今日、様々な演奏動画を観ることができます。活躍中のピアニストの中で、どう見ても演奏に支障がありそうな姿勢の方も多数。
例えば、鍵盤に覆いかぶさるように常時弾いている若手、前屈みで背骨が曲がったままになったベテランなど。
今回の講座で勉強させていただいた内容をレッスンで伝える時、「こんな姿勢だって立派に弾けているじゃないですか」と反論されることも想定されます。どのように理論武装したらよいのでしょうか。
自分が演奏しやすければ、どんな姿勢もありなのか、あるいは、彼らも悩み、故障をしているのか。 -
我々の最終目標は「思い通りの演奏ができる」ことであり、見た目は重要ではありません。
“良い姿勢”の呪文の通りに背中をカチッと伸ばして固めて「思い通りの演奏ができれ」ば、それでOKですし、”自由奔放”な姿勢で「思い通りの演奏ができれ」ば、それもまたOKです。しかしながら、あまりにも特徴的で偏った姿勢は、普遍性に欠けることが多いのです。
前屈みで巧みに演奏しているプロピアニストは、そのピアニスト自身の「身体のつくりと動き」に合った動き方を習得し、身体を思い通りに”使いこなせて”います。
その前屈みの演奏姿勢が、他人の身体にとって”使いこなせる”かどうかは一概には言えません。AさんにとってBさんの演奏姿勢は偏っているように見えても、Bさんにとってはその方が使いこなしやすいのです。その逆に、BさんにとってAさんの真っ直ぐに力んだ演奏姿勢はとても窮屈に思えることでしょう。ただし、初心者であればあるほど、まずは人間の身体のつくりに沿った動きから始めてゆくのが戸惑いは少ないでしょう。普段は直立二足歩行で生活しているのですから、背中を伸ばしている姿勢の時間が圧倒的に多いのです。背中を伸ばしている姿勢の時間が多いということは、その姿勢において様々な身体の動きを経験しているとも言えます。その様々な身体の動きの経験の中から、ピアノを演奏するという身体の動きを紡いでゆけば、さほど遠回りしなくても良いという事になります。
トランプのカードを例にとりましょうか。
まず、人間の身体のつくりと動きを、1-10のカードになぞらえます。
その中で、「普段の何気ない生活」の中で使っているカードは4,5,6だとします。
そこで、ピアノを弾くという「普段の生活には無い動き」を要求された時、2,3,4,5,6,7,8のカードが必要となるのです。この時に新たに必要となった2,3,7,8のカードを、我々はピアノの練習を通して使いこなせるようにしてゆくのです。
ただし、あまりにも力みすぎたりクセがついたり等、「間違った身体の使い方」で弾き続けると、1や9といった極端なカードも使わざるを得なくなってしまい、「普段の何気ない生活」で使わない領域まで使うことになるので、痛みやシビレが出始めてしまうのです。では、くだんの「前屈みのピアニスト」はどうでしょうか。おそらく10といった、身体のつくりとしては可能だけれど、おそらくその人個人しか使わないであろうカードまで使って弾いています。これが個性と呼ばれるものなのでしょう。
さて、あなたはどのカードを使って演奏しますか。7,8,9といったカードを使いこなせていないにも関わらず、いきなり10のカードは使いこなせませんよね。だからこそ、まずは4,5,6の姿勢≒良い姿勢から始め、ピアノのレッスンやエクササイズを重ねて、次第に2,3,4,5,6,7,8まで拡げてまいりましょう。
そうすると、4,5,6の3枚のカードより、2,3,4,5,6,7,8の7枚のカードを使いこなしたほうが、「思い通りの演奏ができる」事に近づくことになります。
1や9のカードは使わなくてもよいはずです。あえて10から真似をしなくても良いはずです。まずは人間の身体のありのままのつくりと動き=4,5,6から始めてまいりましょう。